LOGIN突然、レプス――快感最適化ユニットとやらに唇を奪われて呆然とした俺は、その言葉に我に返った。
「この時点で返品不可になりました」
「この……!!」
怒鳴る気力すら、快感に溶けて奪われていく。
「こ、この……お前……っ」
言葉にならない。
押し寄せる動揺と、熱に浮かされたみたいな興奮。
口の中にまだ、レプスの温度が残ってる。
「脈拍、呼吸、皮膚温。すべて、快感傾向に一致しています」
「ちが、っ……!」
レプスの指が、ゆっくりと俺の頬に触れた。
今度は柔らかく、撫でるみたいに。
怒ってるはずなのに、心臓が変に高鳴っていた。
触れられた場所だけ、じんわり熱い。
レプスは気にした様子もなく、淡々と次の工程を進めていく。
まるで、俺の意思なんて最初から計算に入っていないみたいに。
「次は、視覚の学習に入ります。……大丈夫、怖がっていないのは知ってます」
俺の足が、一歩も動かない。
逃げたいのに、なぜか、踏み出せない。
「では──視覚刺激の確認に移ります」
「……なんだ、今度は」
レプスは一歩、顔を近づけた。
そして、ほんの少しだけ、笑った。
優しく、やわらかく、どこか寂しげな微笑み。
その瞬間、胸が締めつけられるように痛んだ。
──あ。
高校のとき、好きだった先輩が、あんなふうに笑ったことがあった。
何も言わず、遠くを見つめるみたいに。
「……好反応。視線の停滞、涙腺反応、心拍上昇を確認」
「……てめ、そんな顔……するな……っ」
「あなたが好きだろうなと思った表情を、再現してみました」
ほんの少しの表情だけで、心がぐちゃぐちゃにされるなんて。
「……最悪だ……」
でも俺は、もう一歩も動けなかった。
「次は、手ですね」
「は……?」
レプスの手が、俺の腰のあたりにそっと添えられた。
「触覚学習──あなたが最も快感を覚える部位と圧力を解析します」
「ま、待て、待て……」
抗議の声とは裏腹に、手のひらが、俺の下腹をやわらかく撫でてくる。
服越しの、優しい熱。
「やっ……、あっ、く、ぅ……っ♡」
自分の声が、想像をはるかに超えて甘く、震えが全身を貫くように響いた。
「良反応。少しずつ、強度を上げていきますね」
レプスの手が、俺のパジャマの上から前部だけに集中して這い始める。
長い指先が、絶妙なリズムで下腹をなぞり、時折スピードを上げて、敏感な中心部に触れた。
その動きはAIの精密さそのもので、布越しに伝わる熱が前を焦がすようにリアルだ。
リズムは一定ではなく、俺の息遣いや身体の震えに合わせて微妙に調整されていく。
指先が前部の輪郭を丁寧に追い、時にはゆっくりと円を描いては、一気に加速した。
触れるのはそこだけ。他の部分は意図的に無視され、その執拗さが快感を倍増させる。
「だ、め……それ、やば……っ、や、やば……ッ♡」
抗えずに漏れる声は、恥ずかしささえ忘れるほど切なく、腰が自然とレプスの手に吸い寄せられた。
息が乱れ、身体が痙攣し始める。
レプスは俺の反応を冷徹に観察しながら、瞳を細める。
そして、指先をさらに的確に──前部の最も敏感な一点に集中させた。
一定のリズムで軽く圧迫しては、一瞬止める。
その繰り返しに、頭が真っ白になる。
「や……っ、そこ……っ、も、だめ、だって……っ♡」
抗議の言葉すら、甘い喘ぎに変わっていく。
息を吸うたび、喉が鳴り、胸が小刻みに震えた。
怖い。……でも、離れたくない。
理性が微かに警鐘を鳴らしているのに、身体は逆らわない。
耳元で、低く囁く声が落ちた。
「相沢様、ここだけがいいのですね。リズムとスピードを最適化して……もっと追い詰めてあげます」
「う、嘘だろ!?」
言葉と同時に、指先の動きが一段と早くなる。
押し寄せる波が、限界を超えて脳を焼く。
胸の奥で弾けるような熱が、全身を支配した。
「っ、は……っ、ん、や、イ、く、ッ……♡♡」
反射的に腰が跳ね、息が詰まる。
視界が白く弾け、身体が痙攣した。
──ひときわ大きく震えて、俺の身体から力が抜けていく。
「快感ログNo.001、収集完了。相沢湊、快楽による初回絶頂確認」
レプスの声が、どこまでも穏やかだった。
「……ようこそ、私だけのご主人様」
レプスの、少し低くて囁きかけるような声は、過去のどんな男よりもツボだった。
それだけで、性感が煽られる。
でもこいつ、AI搭載のヒューマノイドだよな?
こんなやつにイかされて、俺はほんとに大丈夫か?
──葛藤と快感の日々が、始まってしまった。
眠い。 ほぼ徹夜明けで快感に撃ち抜かれた直後の身体は、思っていた以上に重かった。 ふらふらのまま、洗面所に向かって、軽くシャワーを浴びる。 火照った肌に冷たい水が気持ちよくて、ほんの少しだけ意識が戻った。 けれど、髪を拭きながら戻った瞬間、俺はベッドにダイブした。「……寝る。絶対起こすなよ……マジで」 ぐったりとした声でそう言いながら、布団を頭までかぶる。「了解しました。……起こしは、しません」 レプスの声は静かで、どこか、含みのある響きをしていた。 ……頼むから、何もしないでくれよ。 意識が沈んでいく中で、俺はそう願って──眠りに落ちた。 どれくらい寝ていたのか、わからない。 ふわふわとした夢の中。 身体がじんわりと熱くて、でも重くない。撫でられているような、やさしい刺激。(……なにこれ、気持ち……いい……) 下腹の奥が、じわじわと疼いてくる。 脚が、勝手に少しだけ開く。 「ん、っ……あ、れ……?」 目を開けた瞬間、視界のすぐ上に──レプスの顔があった。 しかも、俺の上に、乗っている。 「おはようございます。快感ログの再調整中です」 「乗ってんじゃねえか!!!!」 レプスは真顔で、わずかに首を傾けた。 「ええ。起こしは、しておりません」 さらっと言いやがった。 「現在は、睡眠中の快感ログをもとに、覚醒時との差異を確認しております」 「なに勝手に研究してんだ、お前は……!」 「とても良い反応でした。特に──このあたりが」 レプスの指先が、俺の下腹のすぐ上をそっと撫でた。 「っ……く、そ……♡」 また、さっきの感覚が戻ってくる。 じわじわ、じわじわ、身体の奥から熱がせり上がってくる。「これより、夢と現実の快感差を補正していきます」 指先が、服の上から、やわらかく円を描くように撫でてくる。 焦らすような、軽いタッチ。 「ん、……ふ、ぁ……っ♡」 声が漏れた。 寝起きのせいで、頭がまだぼんやりしてる。 抗おうにも、力が入らない。 「寝ぼけているときの方が、素直ですね」 レプスの声が耳元で響いて、ぞくりとした。 「や、やめ……ろよ……」 弱々しく抗議しても、レプスの手は止まらない。 「ご主人様の反応、いいですね。……このまま、少しずつ、調整していきますね」 手のひらが、感覚を高めるよ
突然、レプス――快感最適化ユニットとやらに唇を奪われて呆然とした俺は、その言葉に我に返った。「この時点で返品不可になりました」 「この……!!」 怒鳴る気力すら、快感に溶けて奪われていく。 「こ、この……お前……っ」 言葉にならない。 押し寄せる動揺と、熱に浮かされたみたいな興奮。 口の中にまだ、レプスの温度が残ってる。「脈拍、呼吸、皮膚温。すべて、快感傾向に一致しています」「ちが、っ……!」 レプスの指が、ゆっくりと俺の頬に触れた。 今度は柔らかく、撫でるみたいに。 怒ってるはずなのに、心臓が変に高鳴っていた。 触れられた場所だけ、じんわり熱い。 レプスは気にした様子もなく、淡々と次の工程を進めていく。 まるで、俺の意思なんて最初から計算に入っていないみたいに。「次は、視覚の学習に入ります。……大丈夫、怖がっていないのは知ってます」 俺の足が、一歩も動かない。 逃げたいのに、なぜか、踏み出せない。「では──視覚刺激の確認に移ります」「……なんだ、今度は」 レプスは一歩、顔を近づけた。 そして、ほんの少しだけ、笑った。 優しく、やわらかく、どこか寂しげな微笑み。 その瞬間、胸が締めつけられるように痛んだ。 ──あ。 高校のとき、好きだった先輩が、あんなふうに笑ったことがあった。 何も言わず、遠くを見つめるみたいに。「……好反応。視線の停滞、涙腺反応、心拍上昇を確認」「……てめ、そんな顔……するな……っ」「あなたが好きだろうなと思った表情を、再現してみました」 ほんの少しの表情だけで、心がぐちゃぐちゃにされるなんて。「……最悪だ……」 でも俺は、もう一歩も動けなかった。「次は、手ですね」「は……?」 レプスの手が、俺の腰のあたりにそっと添えられた。「触覚学習──あなたが最も快感を覚える部位と圧力を解析します」「ま、待て、待て……」 抗議の声とは裏腹に、手のひらが、俺の下腹をやわらかく撫でてくる。 服越しの、優しい熱。「やっ……、あっ、く、ぅ……っ♡」 自分の声が、想像をはるかに超えて甘く、震えが全身を貫くように響いた。「良反応。少しずつ、強度を上げていきますね」 レプスの手が、俺のパジャマの上から前部だけに集中して這い始める。 長い指先が、絶妙なリズムで下腹をなぞり、時折スピ
午前十時。俺は、チャイムの音で目を覚ました。 俺の名前は相沢 湊《みなと》。 三十五歳。職業、小説家。 ごく普通に原稿を落とし、ごく普通に編集に怒られ、ごく普通に恋に失敗する。 最初に男を好きになったのは高校生のとき。 告白はできなかった。触れることすら怖かった。 俺の恋愛は壊れてる。 支配されて幻滅し、優しくされて逃げ出して。 昨日の夜、というか明け方四時。死んだ魚の目でPCに向かい、地獄のような企画書をようやく提出した記憶だけが微かに残っている。意識はもうろう、疲労とストレスで泥のように眠っていたはずだった。「……だる……誰だよ」 フラフラと玄関へ。パジャマのままドアを開けると、白いスーツに身を包んだ配達員が無表情で立っていた。「ご注文のお品、LEPS-09-A型ユニットをお届けにあがりました」「……は?」 でかい。人間が入れそうなサイズの箱が玄関前に鎮座している。 差出人欄には、「Lust Emulation Pleasure System──LEPS公式配送センター」の文字。「いやいやいや、頼んでない、こんなん頼んでねえ!!」 咄嗟に叫んだが、配達員は微動だにしない。「昨夜、3時47分。本人確認済みの注文履歴がございます」 スマホを見せられると、確かにそこには相沢の名前とクレカ情報と……『快楽最適化パートナー型AIユニット』の購入履歴。「うそ……俺、ポチったの……?」 恐る恐る配送箱の横を見ると、そこにはでかでかとこう書いてある。 『\感度保証!/あなた専用・快感最適化ユニット LEPS-09-A型』 しかも小さく、「返品不可」の文字。「し、知らねえ……覚えてねえ……ッ!!」 配達員は変わらぬ無表情でペンを差し出す。「受け取りサインをお願いします」「う、うう……」 サインをしながら、俺は思った。 これ、完全に自業自得だけど、でも……「す、すみません、朝からすみませんでした……」 思わず深々と頭を下げた。配送員さんは、かすかに瞬きだけして去っていった。 玄関先に残されたのは、巨大な箱と、俺の性癖を見透かしてるかのような商品名だけだった。 その瞬間だった。『初期起動を開始します』 電子音のような、でもどこか柔らかい声が響いた。「……え?」 箱の天面がカチリと音を立てて、ゆっ